大阪地方裁判所 昭和51年(わ)3809号 判決 1977年2月28日
主文
被告人を懲役一年六月に処する。この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
押収してあるビニール袋入り覚せい剤粉未一袋1.033グラム(昭和五二年押第六九号の一)、ナイロン袋入り覚せい剤粉末二袋15.33グラム(同号の二の一)、雑誌切はし包入覚せい剤粉末一包0.10グラム(同号の二の二)、銀紙包入覚せい剤粉末一包0.15グラム(同号の二の三)を各没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第一 昭和五一年一〇月一〇日アメリカ合衆国グアム島からアメリカン航空PA五八三〇便航空機にフエニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する覚せい剤粉末1.043グラム(押収してあるビニール袋入り覚せい剤粉末一袋1.033グラム(昭和五二年押第六九号の一)はその一部)を財布の中に入れて携帯して搭乗し、同日午後〇時五〇分ころ大阪府豊中市螢池西町三丁目五五五番地大阪国際空港に到着して本邦内に持込み、もつて覚せい剤を輸入し、
第二 前記覚せい剤を税関長の許可を受けないで輸入しようと企て、前記大阪国際空港に到着したのち前同日午後一時一〇分ころ同空港内大阪税関伊丹空港支署旅具検査場において税関職員の旅具検査を受ける際、前記覚せい剤粉末1.043グラムを財布の中に入れて携帯している事実を秘匿して通関しようとしたが、同職員にこれを発見されたためその目的を遂げることができず、
第三 法定の除外事由がないのに、同一〇月一六日、大阪市北区東寺町一番地の二の被告人方居宅において、フエニルメチルアミノプロパン塩類を含有する覚せい剤粉末15.62グラム(押収してあるナイロン袋入り覚せい剤粉末二袋15.33グラム(昭和五二年押第六九号の二の一)、雑誌切はし包入覚せい剤粉末一包0.10グラム(同号の二の二)、銀紙包入覚せい剤粉末一包0.15グラム(同号の二の三)はその一部)を所持し
たものである。
(証拠の標目)<略>
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、被告人の本件第一及び第二の犯行につき被告人が覚せい剤を国外で入手したわけではなくもともと国内で所持していたものを誤つて外国に持ち出し再び本邦に持ち帰つたにすぎないものであつて覚せい剤取締法第一三条及び関税法第一一一条第一項、第二条第一項第一号にいう輸入には該当しないと主張する。
そこで、判示第一及び第二の認定に供した証拠の標目記載の各証拠を総合すると次の事実が認められる。被告人は日本国内において友人の川原憲夫なる者から覚せい剤を譲り受けその一部をビニール袋に入れて自己の財布の中に入れ携帯所持していたところ、昭和五〇年一〇月六日経営する会社関係者の観光及び海外研修の目的を兼ねて大阪国際空港からグアム島へ出発することとなり、出国検査手続終了後飛行機搭乗前、財布の中に右覚せい剤をいれていることを思い出したものの、そのままグアム島に行き同月一〇日グアム島より帰国の途についたが判示第一及び第二の認定事実どおり本邦への入国の際税関職員より財布の提出を求められるに及び本件犯行が発覚したものである。
ところで、関税法にいう輸出、輸入については、同法第二条第一項第一号が「輸入」とは、外国から本邦に到着した貨物(外国の船舶により公海で採捕された水産物を含む。)又は輸出の許可を受けた貨物を本邦に(保税地域を経由するものについては、保税地域を経て本邦に)引き取ることをいう。とし、同項第二号が「輸出」とは、内国貨物を外国に向けて送り出すことをいう。と定義し、輸出品を再び我が国に搬入する場合を、明示的に「輸入」の定義から除外していないのみならず、同法と一体となり関税制度について定めている関税定率法第一四条第一〇号本文においては「本邦から輸出された貨物でその輸出の許可の際の性質及び形状が変つていないもの」を本邦に搬入することが「輸入」に該当することを前提として関税を免除する場合を規定していることなどに照すと、我が国から一旦外国へ搬出したものを再び我が国に搬入する場合も関税法上の輸入に該当し、同法の規制を受けることは明らかである。また、覚せい剤取締法上の輸出、輸入については、同法では夫々その定義をしていないが、同法の趣旨に照し、外国から我が国に覚せい剤を搬入することを輸入といい、我が国から外国にそれを搬出することを輸出というと解すべきところ、同法では、製造業者、医師、研究者等一定の資格のある者が特定の場合にはこれを所持することが許される場合がありながら、それ等の者を含めて何人もこれを輸出、輸入することを同法第一三条が禁止している。なお、同法では、我が国から国外に搬出した覚せい剤を再び我が国に搬入する場合も輸入というべきか否かの判断の準拠となる規定は見当らないが、同法が覚せい剤の濫用による保健衛生上の危害防止のための取締法規であることの立法目的に照し関税の処理と輸出入手続の適正を図ることを目的とした関税法上の取扱いに比し、これを厳しく解すべき必要こそあれ緩やかに解すべき何等の根拠もない。従つて所持資格もない被告人が我が国から外国旅行をするに際し、密かに覚せい剤を携帯所持して出国し、再び該覚せい剤を携帯所持して我が国に入国した場合には、覚せい剤取締法上の輸出の罪と輸入の罪の各構成要件を各別に充足しているものというべきであり本件はその輸入についてのみ問擬されているというにすぎず、国外に搬出した覚せい剤の搬入であるとの一事をもつて本件搬入行為が輸入罪を構成しないという理由は全くない。従つて弁護人のこれらの点に関する主張はいずれも採用できない。
(法令の適用)<略>
よつて、主文のとおり判決する。
(山中孝茂 日比幹夫 上垣猛)